#18: リアルの探求

#18: リアルの探求

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

私は友人の経営するコーヒーショップでたまに店頭に立つことがあります。今週は久しぶりのシフトインでした。コーヒー雑誌を作っているとはいえ、もともとバリスタなどコーヒーの仕事に携わっていたわけではないStandart(海外もJapanチームも)にとって、カウンターの奥から見える世界を体験できるのは個人的にも誌面づくりにとっても貴重です(店頭に立つたびに前回から時間が開き過ぎて習ったことを忘れてしまうのですが、それにもかかわらず優しく受け入れてくれる友人に感謝)。


毎回思うことですが、バリスタの仕事は本当に多岐に渡ります。お客さんとのコミュニケーション、掃除や整理整頓、コーヒーの抽出と提供、商品の発送準備や備品の管理と準備、SNSの管理、カッピングやトレーニングなど、パッと思いつくだけでもこれだけの業務があり、大体2つ以上のタスクが同時進行します。自分のことを「バリスタ」と呼べるとはまったく思っていませんが、その仕事に触れるたびに多くの発見があり、コーヒーショップで働くすべての方への尊敬の念に堪えません。

何気なく立ち寄る素敵なお店の裏側では、コーヒーのプロたちが私たちに最高のコーヒー体験を届けるために奮闘していると改めて感じる機会になりました。ちなみに、1番の役得だと感じるのは、焙煎された豆が保管されているコンテナを開けたときのなんとも言えない匂いを嗅げることです。

そしていよいよ、来週よりStandart Japan 第14号のプレオーダーを開始します。発送開始はまだ少し先ですが、リリース告知を楽しみにしていてくださいね!

編集長 Toshi

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

知るは難く、行うは易し

日々増殖する情報に囲まれた「情報過剰社会」に生きる私たち。特に毎日何億という数の人々が情報を双方向にやりとりするソーシャルメディアは、コーヒー業界にも多大な影響を及ぼしています。この記事ではカフェやコーヒーショップが急増中の香港を例に、インフルエンサーを中心とするカフェの消費傾向が描かれています。
 
普段私たちは情報の大海原から欲しいものを「自ら」手に入れるのではなく、だれかの手によって整理された、つまり「キュレーター(メディアやインフルエンサーなど)」を通じて情報を収集することがほとんどです。そしてInstagramなどのビジュアル特化型プラットフォームでは、そこで共有されるお店の情報も味やコンセプトよりも見た目の魅力を基準に整理されがちになります。するとそこには見えない「ビジュアル重視の世界」ができあがり、無意識のうちに私たちの判断基準にも影響を及ぼすようになってくるのです。
 
ここで重要なのは発信される情報の良し悪しではなく、私たちの触れる情報は既に誰かが「整理したもの」だという事実を認知することです。ソーシャルメディアは新たなコーヒーの一面や素敵なお店との出会いの場になり得ることは間違いありません。だからこそ大切なのは目の前の情報を鵜呑みにするのではなく、その背景にあるストーリーに触れることではないでしょうか。私たちに問われるメディアリテラシーとは、言い換えればそんな文化やモノの「Special」な面を知ること。なぜならスペシャルティコーヒーの魅力とは、一杯のコーヒーに凝縮された味わい尽くせないほどの「スペシャルなストーリー」なのですから。

 

共鳴する声明

10月、米国のコーヒー産業界における人種の多様性と平等を目指す非営利団体、CCRE (The Coffee Coalition for Racial Equity)が正式に発足。この背景には今年6月、創設者のPhillis Johnson がBLM運動の再燃を受け、コーヒー業界のリーダーたちに向けた人種差別撲滅への連携を訴える公開状があります。そこに描かれた彼女の強い思いは、その後6カ国、計16人のステークホルダーの共感を生み、多様性溢れる同団体の発足に繋がったのです。CCREは黒人コミュニティにコーヒー業界での機会創出に取り組むとともに、これまで軽視されてきた生産者に対する社会の意識改革を目指します。
 
そして近年はバリスタが牽引するアクティビズムが盛り上がりを見せています。2017年、本誌第12号でも特集したAshley Rodriguezさんは、男性優位なコーヒー業界におけるバリスタの公平性とエンパワメントについて発信するポッドキャストBoss Baristaを開始し、同年10月には業界内の差別、セクシャルハラスメントの撲滅を目指すコミュニティプロジェクト#coffeetooが発足。そして翌年、#coffeetooの創始者Molly Flynnさんが登場したBoss Baristaの放送に影響を受け、オーストラリアのスペシャルティコーヒー業界内の女性や性的マイノリティへのエンパワメントに取り組む団体SAME CUPが創設されるなど、バリスタによるアクティビズムの広がりが新たな繋がりを生み出しています。
 
そして皮肉ながら、このようなアクティビズムの発展を促進しているのも、やはりソーシャルメディアなのです。今日を生きる私たちは、あらゆるメディアを通じてバーカウンターの隔たりを超え、バリスタ、そしてさらに遠くの生産地とも繋がることすらできます。メディアを通じた「見方」と「味方」、その両面への理解を一人一人が深めていくことで世の中にエンパシーが広がり、コーヒーに関わる全ての人々のより良い生き方に繋がってほしいと心から願っています。

 

その他の気になるニュース

▷ コーヒー農家が収穫物の対価を受け取るまでに最大1年近くかかるという現実を変えるべく、ケニアの元農家が精製・焙煎を含む垂直型のビジネスに着手。農家としてチェリーを販売していた頃と比較すると、単位重量あたりの売上は何十倍にもなるそう。

▷ 10月21日、ハワイのマウイ島でさび病にかかったコーヒーノキが発見されました。感染源や感染時期などは分かっておらず、収穫への長期的な影響も懸念されています。

▷ ブラジルにて、アフリカミツバチと西洋ミツバチのハイブリッド蜂を取り入れた生産方法が人気。カッピングスコアが1点ほどあがったという報告も。生産量や品質の向上だけでなく、サステイナビリティの観点からもさまざまなメリットがあるようです。

▷ メルボルンに突如現れた「ストリート・ラテアーティスト」。神出鬼没で素性は一切不明、残された情報は道に「注がれた」アートのみ。果たして犯人/アーティストは誰なのか。現在”犯行現場”をまとめたMapが公開中。メルボルン在住者の方からの情報をお待ちしています。

▷ 第128回国際コーヒー理事会にて、歴史上初の官民合同特別委員会が発足。コーヒー産業の包括的で回復力のある経済的持続可能性を追求する共同声明が発表されました。生産者の暮らしと産業の持続可能性をコア・ビジョンに置き、 今後4~6カ国の農園への支援プロジェクトを開始予定。

 

What We're Drinking
今週のコーヒー


 

ゆげ焙煎所
兵庫

おいしいコーヒーはすてきな飲みものであるという想いのもと、心に響くコーヒーを届けるゆげ焙煎所。2013年に兵庫県西宮市で創業した自家焙煎のスペシャルティコーヒー専門店です。オープンからこれまでコーヒーと真剣に向き合い続け見えてきた焙煎を体験してください。ゆげ焙煎所のコーヒーを飲んだ後はきっと、優しい気持ちになれるはず。心に響きますように。

生産者: 
サンタローサ農園 リベラ・ラウール


生産国:
エルサルバドル、チャラテナンゴ、サンイグナシオ市 (地図


品種:
パカマラ

精製方法:
ハニー

テイスティングノート:
焼きリンゴ、メープル、シロップ

編集長のコメント:

いつものように豆を挽いた後で香りをかごうと鼻を近づけると、とてつもない芳香で顔面にパンチを食らったような衝撃を受けました。こんなに香りのたつコーヒーがあるのかとびっくり。フレーバーも香りに負けず重厚なボルドーワインのようなどっしり感。プルーンのような濃縮されたジューシーさと、発酵感を少し感じ、りんごがゴロゴロ入ったオランダスタイルのアップルパイも思い出させてくれます。和三盆のような上品な甘さが口いっぱいに広がり後味は少しのカカオ。ここまで聞くと濃厚なイメージがありますが、本当にクリーンカップで、心地よい飲み口やフィニッシュがたまりません。


Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

砂糖の世界史 - 川北 稔
概要

岩波書店の小中学生向けレーベル、岩波ジュニア新書から出版された名著と名高い「砂糖の世界史」。砂糖というありふれたものから世界史を読み解いていく本で、「これが子ども向けなのか……」と思うくらい面白く一気読みでした。「砂糖のあるところに、奴隷あり」という言葉が同書に出てくるように、イギリスやフランスなどヨーロッパ諸国で、17世紀半ば以降に砂糖の消費が急速に進んだこと(紅茶やコーヒーのブーム)を受け、奴隷貿易や植民地プランテーションが始まりました。これが現在に至るカリブ諸国やアフリカの貧困の構造、そして人種差別の要因を生み出したのです。コーヒーに関する章もあり、Standartでも断片的に取り上げていたような内容——例えばコーヒーハウスは様々な情報や人が集まる場所で、そこから新聞・雑誌の発達、銀行や保険会社の誕生、文学・科学・芸術など近代の文化と言えるようなものがどんどん生み出されたといった話——など興味深いものばかり。数百円で手に入るのでぜひ。 - Toshi


 

映画『監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影』

今年の夏に公開された本作は、GoogleやFacebook、Instagramといった大手テック企業の元幹部・従業員のインタビューをもとに、ソーシャルメディアが人間や社会に及ぼす悪影響を検証するドキュメンタリー。「利用するプロダクトにお金を払っていないなら、本当のプロダクトはユーザーであるあなた自身だ」という作中の発言通り、各プラットフォーマーは"無料"サービスの対価としてユーザーから集めたデータを使って広告収入を得ているわけですが、映画内では特にこのビジネスモデルの鍵であるユーザーの注意をひきつける(あるいはプロダクトに依存させる)ための仕組みに焦点があてられています。何億人というユーザーを抱える企業で重要な役割を担っていた人たちが「こんなつもりではなかった」と語る姿を見ていると、そんな無責任なと苛立ちつつも、最終的に自分の身を守れるのは自分だけなんだというどこか諦めに似た気持ちが湧いてきました(そしてこの映画を見終えてすぐ、Netflixが次の映画をおすすめしてきたのには思わず苦笑いしました)。少しでも現状を知るために、映画内でも元インサイダーとして登場するTristan Harrisさんが共同創設した、テクノロジーの倫理的な活用を推進する非営利団体Center for Humane Technologyのポッドキャスト「Your Undivided Attention」を聞いています。- Atsushi


Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

 

板坂 奈桜

TAKAMURA COFFEE ROASTERSでバリスタ、ロースターとして勤務。休みの日はレコード屋を巡るのがマイブーム。

セットアップ:

抽出器具:AERO PRESS(アップライト)
豆量:15g 
湯量:220cc
挽き目:細挽き(wilfaのエアロプレス挽き)
抽出温度:90℃
抽出時間:2:30


手順:

  1. 220ccのお湯を注ぎ、5回ステア
  2. 1分間待つ
  3. 1分間かけてプレス
  4. よく混ぜたら美味しいコーヒーの完成!

        ポイント:

        ▷ 器具はしっかり温める
        ▷ 最初の投湯からステアまでは30秒くらいおく
        ▷ あとは難しいことはなし!とにかく楽しくシンプルに

        一言:

        その日の気分で豆やカップを選んだり、たまには公園や山の上でも…楽しみ方は十人十色。 大阪に来た時は是非タカムラでしか体験できないこと楽しみに来てください!


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        今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第13号スポンサーの Daterra、パートナーのトーエイ工業Swiss WaterDepartment of Brewlogy のサポートでお届けしました。

        LOVE & COFFEE✌️
        Standart Japan

        (執筆・編集:Takaya & Atsushi)