#64: 路線、サムネイル、コーヒー

#64: 路線、サムネイル、コーヒー

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

今週聞いたポッドキャストで、「シングルオリジン」という言葉や定義について考えさせられるものがありました。ポッドキャストでは、「ブレンドとは何か?」に始まり、ブレンドとシングルオリジンの関係性、シングルオリジンという言葉がどこから来たのか、そしてそれが持つ意味についてなどディープな疑問を投げかけてくれます。

「シングルオリジンコーヒー」というのは、生産国だけでなく、農園や生産者、品種や精製方法などの情報の透明性があるコーヒーのことを指します。シングルオリジンのコーヒーはテロワールを表現していてピュアで素晴らしい、というような主張を聞いたことがある人も多いかもしれません。
反対に、ブレンドコーヒーとは何でしょうか? おそらく、複数の異なるコーヒー豆が混ざったものがブレンドコーヒーだよと答える方が多いはずです。ただ問題は、何を「混ぜる」とするうかということ。ポッドキャスターが農家の方や業界で働く方達に「同じ農園で育った2本の木から取れたそれぞれのコーヒー豆を混ぜたらそれはブレンド?」と聞く場面では、インタビューされた人たちは言葉を詰まらせ、それぞれが異なる回答をします。木は一本一本それぞれがユニークであるということを頭では理解しつつも、それをブレンドと言ってしまうと、全部のコーヒーがブレンドじゃない?という哲学的な問いにはまってしまうことに。

つまりブレンドの定義は結構曖昧で、その対義語のように扱われているシングルオリジンも見方によってずいぶん曖昧な言葉であるとわかります。確かにアフリカの生産国では、小規模農家から集めたコーヒーチェリーを精製する精製所(ミル)までしか生産ルートを辿れないことも多いです。いろんな農家のコーヒーチェリーが混ざっているとなると、これはもうブレンドコーヒーということになるのでしょうか?

シングルオリジンという言葉がもてはやされる今のコーヒーシーンで、その言葉がマーケティングなどに乱用されないためにも、この「シングルオリジン」という言葉を見た・聞いた時にはどんな情報が付随しているのかをよく見極める必要がありそうですね。

ちなみに個人的には、ブレンドにしか表現できないフレーバーがあると考えていて、新しいコーヒーショップに行くとついついハウスブレンドを頼んじゃいます。みなさんはブレンドコーヒー、好きですか?

それでは良い週末を。

編集長 Toshi

 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

ウェルビーイングに目線を合わせて

米国では約610万人の子どもたち(2〜17歳の人口の9.4%)が過去にADHD(注意欠如・多動症)と診断されたことがあり、薬やカフェイン飲料に頼る形で集中力を維持しているケースも珍しくないとThe Conversationが伝えています。10代の若者の過剰なカフェイン摂取とウェルビーイングについてまとめられた同記事によると、エナジードリンクやコーヒー飲料の中には、10代の摂取基準量の約3倍ものカフェインが含まれている商品もあり、若者のウェルビーイングが脳への過剰な刺激によって危険に晒されているといいます。

また、ADHDと診断された子どもの約6割が不安症やうつ病といった精神疾患を併発しているとのこと。しかしADHDと見られる症状の原因を探ると、ストレスや睡眠不足、不必要な薬の服用、栄養不足など、生活習慣上の問題に行き着く場合も少なくないそうです。そしてその背景にはカフェインや糖の過剰摂取が関係している可能性があることから、栄養神経科学の専門家は、上記の症状の改善に向けた最初のステップとして、日々の生活習慣や食生活の見直しを勧めています。

以前のニュースレターでも紹介したように、カフェインが子どもの発育を阻害するかどうかは明らかになっていないものの、体格や年齢に見合った摂取量の調整は子どもたちの心身の健康における重要な要素だと言えるでしょう。ちなみに、厚生労働省がQ&A形式でカフェインの過剰摂取に関する情報を発信しているので、大人のあなたも各国の基準に照らしながらカフェイン接種量について振り返ってみてはいかがでしょう?

その他の気になるニュース

▷ ロンドン地下鉄の各駅にある、高評価・駅近の独立系コーヒーショップをまとめたマップが公開。ちなみにラテの平均価格が最も安い路線はノーザンラインらしく、移住予定のコーヒーラバーは是非参考に。

▷ ブラジルの協同組合Minasulが生豆価格と連動した暗号資産「コーヒーコイン」を発表。生豆価格の上昇を受けて、投資家から注目を集めています。なお販売益は霜害に遭った同組合所属の農家へ分配される予定とのこと。

▷ 来年度からイタリア・フィレンツェ大学でコーヒーの修士プログラムが開始予定。真の「コーヒーマスター」になれるチャンス! また南西部に位置するシチリア島では国産コーヒーの実験が進んでいます。

▷ 各地で音楽イベントが再開する一方で、なんと大音量で音楽を聞いたあとはコーヒーを控えた方がよいとの研究報告が。どうやらカフェイン摂取によって、聴覚の回復期間が延びる可能性があるそうです。

▷ 10月中旬から期間限定で、原宿のネスカフェにコーヒーの香りを楽しむ体感カフェがオープン。注文時はメニュー代わりに香りの説明文が使われ、さらにコーヒーの香りが頭上から噴射される席まで設置されるようです。

 

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

IMAGINE.COFFEE
島根(地図

島根県は水の都、松江市にあるIMAGINE.COFFEEとIMAGINE.COFFEEROASTERY。スペシャルティコーヒーに出会えた事で自身の幅が拡がり続けている経験から、コーヒーを飲む事に限らず、コーヒーと何かを組み合わせたりして、コーヒーで良い「体験」をしてもらう事が我々の目標です。

農園:ラロッカ農園

生産地域:コスタリカ サンホセ州タラス地区サンパブロ (地図

品種:ビジャロボス

精製方法:アナエロビック  レッドハニー

テイスティングノート:花梨、ザクロ、栗、かすかにローストアーモンド。明るく甘い印象のコーヒー

編集長のコメント:

ビジャロボス(Villalobos)という初めて飲む品種。Typica種の変異種のようです。アナエロビック レッドハニーで精製された、生き生きとした酸と甘さが際立つコーヒーでした。お湯を注いだ時は麦チョコや完熟バナナ、フルーティなカカオを連想させてくれる匂い。フレーバーは弾けるような酸味からのボディのしっかりとした甘みがあり、リンゴジュースやフレッシュなロゼワインを飲んでいるよう。茹でた落花生を思い出す優しいナッティ感も感じました。美味しい!


Artists in Residence
Standartを彩るアーティストたち

 アーティスト: 

ウ・ヨンシク Instagram オンラインストア

プロフィール:

韓国・ソウルを拠点に活動するイラストレーター。人のつながりとシステムの全体性への考察をコンセプトに、常に集団主義的な視点から作品を創作している。カラフルながら中心的ではなく、それでいて全体のコンセプトに欠かせないキャラクターたちは、個人がそれ自体ではなく、複雑な全体の一部であることを想起させる。

最新の掲載記事:

Standart Japan第14号 「好きだったコーヒーへのラブレター」

Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

「The importance of visual literacy」
デイビッド・フッカー(TEDxBeaconStreet)

数年前に『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』という本が話題になり、日本の国語教育に疑問が投げかけられました。その一方で、普段の生活に目を向けてみると、文字だけでなく絵文字やスタンプやミーム、写真、動画を活用して、人に何かを伝える機会はますます増えています。ただ文字の読み書きは誰もが義務教育課程で学ぶにもかかわらず、イメージの「読み書き」については一部の学科や授業を除いてそこまで深く学ぶ機会はありません。これこそが、TEDトーク「The importance of visual literacy」のテーマです。

普段のコミュニケーションに占める視覚的要素の割合が増えているから正確な情報をやりとりできるようビジュアルリテラシー(直訳すると「視覚的読解記述力」)を向上させましょう、というだけなら、まぁその通りですし、実際にトーク内でもその方法について触れられていますが、個人的に気になったのはビジュアルリテラシーの格差、もしくは非対称性です。例えばNetflixはひとつの映像作品用に何枚ものサムネイルを準備しており、できるだけ長い時間ユーザーがサイトにとどまるようサムネイルの最適化を図っています。つまりNetflixはビジュアルリテラシー(とユーザーデータ)を武器に、常にユーザーを画像で説得しようとしているわけです。それ自体は当然といえば当然の動きなのかもしれませんが、ユーザーが自らの視覚的な趣向——視覚的なクセと言えるかも——を把握していなければ、その説得を無意識に受け入れ、自らの意思決定まで影響されてしまう可能性があるということには、ある種の恐怖を感じます。他者とのコミュニケーションのためにも、個人的な選択のためにも、日々目にするイメージが何を意味するのか、そして自分の視覚的思考にはどのようなクセがあるのかについて、時折考えてみる必要があるかもしれません。



Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

GASMAN(ガスマン)
from GAS-O COFFEE CO.

カフェシーンでの小さなエコを広げる活動をするために生まれたスーパーヒーロー。映画関連のイラストを描くことやミックステープを作ることが趣味。

セットアップ:

抽出器具: エアロプレス(インバート)
豆量:18g(中煎り推奨)
湯量:60ml
挽き目:ハリオハンドグラインダー 左へ8-10カチカチ
湯温:90℃
抽出時間:2:10

手順:

  1. タイマーをスタートし、お湯60ml注ぎ、 10秒間隅までしっかりと撹拌
  2. リンスされたフィルター付きキャップをセット
  3. 2:10までぼーっと待つ
  4. 逆さにした後に一度円を書くようにエアロプレス本体をゆっくり回し中の沈殿物を均等にする
  5. 力の限り最後までプッシュ

    ポイント:

    ▷ Bon Joviの「It’s My Life」という曲をかけ、サビのところでヤー!と言いながらプッシュするとチャンバー内の圧力が9バーになるとかならないとか。
    ▷ リンスしたフィルターは空気が入らないようしっかりとキャップに貼り付けて!

    コメント:

    難しく考えず、皆さんがアウトドアで美味しく濃いフェイクエスプレッソを楽しめるように考えました。ミルクで割ったり色々試してみてください。 イラストもみてね!


     

    今週の The Weekend Brew はいかがでしたか?

    今日のShout-out!は、コーヒー関連のクラウドファンディングとしては一風変わったこちらのキャンペーン。コーヒー業界で働く女性を支援する団体IWCAの日本支部が、ブラジル生まれのコーヒー絵本の出版に挑戦しています。コーヒー農学者のフラビオ・ボレムさんが妹と一緒に作ったこの絵本は、主人公コフィーがコーヒーの発祥にまつわる物語の世界を冒険するというもの。焙煎豆がついてくるリターンもあるので、ぜひページをチェックしてみてください。

    Standart JapanのウェブサイトInstagramFacebookもぜひチェックしてみてくださいね。

    今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第17号スポンサーの TYPICA、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業Probat x DKSHSwiss WaterANKOMNのサポートでお届けしました。


    LOVE & COFFEE✌️
    Standart Japan
    (執筆・編集:Takaya & Atsushi)