今週「More Is More: The End of Minimalism(多い方が豊か:ミニマリズムの終焉)」という興味深い記事を読みました。デザインやファッション、アートやカルチャーなどは時代を写す鏡と言われることが多く、インテリアデザインも同様に時代背景を色濃く反映するもの。この記事では、COVID-19の影響から生活様式が変わる今、以前までの流行だったミニマリズムからマキシマリズムへの移行が起きているとされています。
最低限の要素と色彩で作り上げるミニマリズムの対極にあるマキシマリズムは、多要素かつ豊かな色彩の空間を指しているそう。忙しくスピーディーな現代(ビフォーコロナ)から距離を置いて精神を統一するような静寂さを求めるのがミニマリズムだとすると、人との繋がりが希薄になってしまった世界(アフターコロナ)で寂しさと孤独を埋めるように温もりを求めるのがマキシマリズムなのかもしれません。コーヒーショップのインテリアデザインやパッケージも、アメリカを中心にポップな色使いやパターンなどを活用する例が増えてきています。インスタグラムの投稿を見ても、ミニマルでクールなものよりも、色彩豊かなものが増えて目を引くようになってきたように感じます。日本でもこれからより個性の強いインテリアのお店が増えていくかもしれませんね! 楽しみです。ちなみに、個人的にマキシマリストと聞いてすぐ浮かんだのがアメリカのインテリアデザイナーのアイリス・アプフェル。彼女のドキュメンタリーは最高でした。
さて、来週9/3(金)20:00に久しぶりのインスタライブを開催します。ゲストはStandart Japan最新号のMeet Your Baristaでインタビューさせてもらったバブロス・コーヒー・ロースターの山岡 清威さん。ベトナムでの暮らしや、山岡さんがランビアンで現地の農家の皆さんと一緒に作るコーヒーについてなど、記事のスピンオフのような形で色々とお話を聞いてみたいと思います。ご参加できる方はぜひ。事前にご質問なども募りたいと思いますので、Standart Japanのインスタグラムをチェックしてもらえると嬉しいです。
それでは今週も良い週末を。
編集長 Toshi
This Week in Coffee
世界のコーヒーニュース
未来のコーヒーは冷凍庫の中?
次なるお家コーヒーのカギを握るのは、冷凍庫かもしれません。「Is the future of coffee in your freezer?(未来のコーヒーは冷凍庫の中?)」と題されたThe New Consumerのこちらの記事では、キューブ型の冷凍コーヒー(コーヒーキューブ)を販売する米国のスタートアップCometeerについて紹介されています。
コーヒーキューブのレシピは至ってシンプルで、キューブの上からお湯を加えるか、解凍したコーヒーをミルクやアイスクリームに注ぐだけ(日本でもLight Up Coffeeがエスプレッソキューブを販売しています)。インスタントコーヒーのような手軽さで、より新鮮で豊かなフレーバーが楽しめます。しかし、Cometeerの戦略で特筆すべきは、ローカルロースターとの連携です。同社はコーヒーキューブの製造にあたって、Counter Culture Coffeeをはじめとする米国各地の有名ロースターからコーヒー豆を仕入れています。こうすることで各ロースターがこれまでに築き上げてきた透明性の高いサプライチェーンを活用できるだけでなく、それぞれの持つ地域性や多様な焙煎スタイルをかけ合わせたサービスの実現に成功したのです。また収益モデルの多角化やブランディングに繋がるという面でも、ロースターとwin-winな関係を築いていると言えるでしょう。
記事の中で指摘されているように、コーヒーはワインのようにボトルを開けるだけでは飲めないため、抽出スキルによってその体験に差異が出るという課題があります。より多くの人がコーヒーの魅力に触れられる今回のような機会が広がっていくことは、新たなコーヒーストーリーの訪れを感じさせます。
その他の気になるニュース
▷ ブルーボトルの米国・西海岸の2店舗限定で、牛乳の代わりにオーツミルクがデフォルトに。未だ試験段階のようですが、これは温室効果ガスの排出量削減に向けた新たな取り組みで、代替ミルクに追加料金を課す「Vegan Tax」への配慮とも考えられます。
▷ マンチェスターFCのホーム、エティハド・スタジアムで、ホットドリンク用の「食べられるコーヒーカップ」が試験導入へ。カップには砂糖や人工添加物は含まれておらず、材料はすべて天然由来かつヴィーガン。ホットチョコレートとの相性は最高だと予想されます。
▷ 以前のニュースレターでも触れた、ブラジルのを襲う霜害。Reutersの記事によると、霜害による2022/23年度のブラジルコーヒーの損失は100万kgを超え、全体収穫量の約4%に至るとの見通し(加えて、干ばつによる被害損失は300万kgを上回ると予想されています)。
▷ 柿酢の製造過程で取り除かれる柿の種を使ったカフェインレスコーヒー、「ハリヨの珈琲」が販売中。開発者の方が通常廃棄される柿の種をストーブの上で焼いてみたところ、香ばしい香りが立ち、黒く焼けた種がコーヒー豆に似ていたことから商品化を思いついたのだそう。
▷ 東京オリンピックのプレスセンターで、無料コーヒーのサーバーに貼られた注意勧告がツイッター上で話題に。その内容は「コーヒーがなくなったら、もうお終いです」。コーヒーラバー的には、たしかに的を射ているかも。
What We're Drinking
今週のコーヒー
NUTSTOWN COFFEEROASTERS
沖縄(地図)
2021年3月、沖縄県石垣島にオープンしたばかりのロースター。 地図で見ると豆粒のような島、殻に包まれたクレイジーな才能が溢れている島。 それが石垣島=ナッツタウン。 6kg、1kgと二機の焙煎機を有しており、店頭販売だけでなくオンラインや業務用卸も。 7月には音楽フェス“京都大作戦”ともコラボし、ダイサクセンコーヒーロースターズとして活動。 石垣島にお越しの際は是非お立ち寄りください。
生産者:Diego Samuel Bermudez
生産地域:コロンビア カウカ県ピエンダモ (地図)
品種:カスティージョ
精製方法:ダブルアナエロビック
テイスティングノート:ライチを口に含んだ芳醇さ、イチゴや桃の甘味、鼻に抜けるカカオ感、アフターの心地よい酸味。
編集長のコメント:
「お゛おお〜」と驚嘆の声が思わず上がるほどに驚きがあるコーヒー。リンゴ飴みたいな香りがする豆だなと思いながらグラインダーに豆を入れガリガリ豆を挽いていると、香ってきたのは香水のような強い金木犀の香り。イカしたパッケージに掲載されてある製法を思わずチェックすると、ダブルアナエロビックの文字。お湯を注ぐとその香りは濃密さを増して鼻腔に立ち上ってきます。僅かにシナモンブレッドのような香りもありました。カッピングスプーンですくいとった液体を口に運ぶと、口内で「パチパチ弾ける」と表現したくなるような陽気なフレーバーが踊り出します。パッションフルーツやライチのパンチある果実実、マンゴーの滑らかな甘さと、香ばしく甘い焼きとうもろこしのようなニュアンス。そしてくっきりと浮かび上がってきたのは、小さい頃によく爪楊枝で突いて食べていた共親製菓の駄菓子さくらんぼ餅。後味にはカカオのビター感もあり、ファンキーでどこか懐かしい体験でした。
Artists in Residence
Standartを彩るアーティストたち
アーティスト:ザック・ローズブルク ウェブサイト|Instagram
プロフィール:ロサンゼルスを拠点に活動するイラストレーター。大学では映画を専攻したものの本気になれず、イラストレーターを目指すように。大学卒業後フランスで英語講師として働いてから、フルタイムのイラストレーターの道へ。現在ではAdidasやThe New York Times Magazineなどをクライアントにグローバルで活躍し、広告や雑誌のほか、壁画やビール缶、レコードジャケットなどを幅広く手がける。
最新の掲載記事:Standart Japan第16号「燃えさかる問い」
※16号付録のポストカードも彼の作品!
Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート
『正欲』- 朝井リョウ
『桐島、部活やめるってよ』『チア男子!!』の著者として知られる朝井リョウが作家生活10周年を記念して書き下ろした小説。タイトルの「正欲」とは、この本を読むと社会的に認められた「正しい」欲望、特に性欲の類いと理解できます。物語の中では対物性愛というある意味「正しくない」欲望でつながった登場人物たちが、多様性を謳いながら自分たちのような超マイノリティのことを多様性の範疇に想定していない社会に苦しみながら生きていく様子が描かれています。結局のところ「多様性」という言葉を使っても、各人の経験や触れた情報によってその枠組に入る対象と入らない対象が生まれるわけで、自分では理解できない考えを持つ(実質、存在を"認識できていない")人とどう付き合っていくかという問題は、考え続けていかなければいけないものなのだと思います。一方でStandart Japanの15号でお話を訊いたパレットークの合田さんの言葉にもあったとおり、誰しもマジョリティ性とマイノリティ性を抱えて生きているため、理解できないからといって誰かを切り捨てる行為は、周囲の人だけでなく自らにも牙を向きかねない、つまりは自らをマイノリティと捉えていない人にとっても他人事ではないという点を忘れてはなりません。この本を読んだだけでは答えは出ないし、もしかしたら余計混乱するかもしれませんが、だからこそ読む価値があるとも言える気がします。
Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ
紙野 菜海 aka nami
祖父が喫茶店を経営していた事とコーヒー好きの兄の影響でコーヒーの世界へと足を踏み入れる。 3年間スターバックスでの勤務を経て、現在は大阪 心斎橋 LiLo Coffee Roastersに在籍し4年目を迎える。 絵を描く特技からイラストレーターとしても活動中。 趣味は愛車のハーレーでツーリング!
セットアップ:
抽出器具:HARIO V60
豆量:15g
湯量:220g
挽き目:EK18.5
湯温:90℃
抽出時間:2:15ー2:30
手順:
- お湯30g注ぎ、蒸らし40秒
- 真ん中から外側に円を描きながら70g注ぐ
- 1:15 ↑同じように60g優しく注ぐ
- 1:40 同じく60g注ぎ、ペーパーのふちにも湯をかける。
コメント:
▷ 蒸らし後の1投目と2投目はケトルから出すお湯を細く出しゆっくり丁寧に注ぐ
▷ 3投目は、お湯を太く一気に注ぐ
▷ 忘れてはいけないことは、その豆に寄り添い その豆を愛し優しく気持ちを込めて入れること☺︎
今週の The Weekend Brew はいかがでしたか?
今日のShoutout!は、ストリートフォログラファーのalexさん。StandartとMOMOS COFFEEのおうちコーヒー動画をInstagramで公開してくれています。素敵!
バックナンバーを含め、The Weekend Brewの感想やコメントはぜひ #standartjapan のハッシュタグと共にシェアをお願いします! 質問はメールでお待ちしております。またお友達やご家族など、The Weekend Brew を一緒に楽しんでもらえそうな方にこのメールを転送していただけると嬉しいです。
Standart JapanのウェブサイトやInstagram、Facebookもぜひチェックしてみてくださいね。
今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第16号スポンサーの TYPICA、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業、セラード珈琲、カラベラコーヒーのサポートでお届けしました。
LOVE & COFFEE✌️
Standart Japan
(執筆・編集:Takaya & Atsushi)