#45: 辞典、鉄鋼、コーヒー

#45: 辞典、鉄鋼、コーヒー

おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?

コーヒー業界におけるデジタルマーケティングの第一人者Jenn Chenさんが発行するニュースレターの今週のテーマが「What I’ve learned in 9 years of freelancing(9年間のフリーランスで学んだこと)」でした。私もStandart Japanを創刊する2017年のタイミングで、10年ほど勤めていた企業を離れてフリーランスとなりました。正直なところ今でもまだ手探り状態ではあるものの、5年目を迎えて仕事との向き合い方も自分なりに少しずつ確立されてきたように思います。箇条書きでリストアップされたJennさんの9年間の学びと自分の考え方を照らし合わせて、確かにという部分もあれば、あぁこれはできていないなぁと思うところも。

特に心に響いたものが2つありました。ひとつ目は「もっとNOを言っていいんだよ」。自分がワクワクしないプロジェクトや仕事などに時間を費やしていると、いざというときに他のことにエネルギーを注げなくなってしまいます。時間は有限なので、自分にとって何が必要なのかを考えて取捨選択することは大切です。ふたつ目は、「成功の喜びを噛み締めること。それがどんなに小さな成功だったとしても」。いろんなプロジェクトが同時進行していて日々慌ただしく過ごしていると、自分が成し遂げたことを褒める余裕がなく、次へ次へと進んでいくことがあります。日々仕事をするなかで当たり前にこなしていることも同様に言えるのですが、自分やチームが達成したことを褒めたり労ったりすることは、仕事へのモチベーションに繋がりますし、メンタルヘルス的にも重要な役割があります。忘れないでいたいですね。個人的にこのリストに付け加えるとすると、「めんどくさいことを後回しにしない」、「友人との時間は作れ」、「確定申告は早めにやっつけろ」です。

今週は、先週のニュースレターで触れた通りKOHIIとのインスタライブに参加しました。アーカイブがこちらに残っているので、もし見逃した方はよければぜひ。

それでは良い週末を。

編集長 Toshi



 

This Week in Coffee 
世界のコーヒーニュース

理想のオフィスが落とす影

先日Nespresso Professionalが、withコロナ時代のオフィスに関するレポート「The Workplace of the Future 2021」を発表しました。同レポートはリサーチ企業・心理学者と協働で、豪州のオフィスワーカーを対象に調査・製作が行われ、先日同社からローンチされた新商品はこの調査結果をベースに設計されたそうです

興味深いのは、オフィス環境が単なる働く場としてではなく、社員の幸福感の向上や結束を深める空間として求められているという指摘です。今回調査対象となったY世代、X世代、ベビーブーマー世代の内、約98%が社員のウェルビーイングやメンタルヘルスが重要であると答えており、約92%がカフェや屋外スペースなどの同僚との交流が生まれる空間、約85%が緑のある屋外のリラックスできる環境が大切であると回答しています。また郊外に出張所のようなハブがあれば、それを活用して通勤時間を短縮したいという声もあがっているようで、リモートワークの浸透もあってか、オフィスを起点とした生活設計ではなく、生活を起点とした働き方がこれまで以上に求められていることがうかがえます。現在豪州では43%の人々が 12か月以内の転職を検討しているらしく、魅力的な労働環境づくりは人材確保の観点からも無視できない要素と言えるでしょう。

一方で、女性に家事・育児の負担が偏っているというジェンダー問題を背景に、パンデミックが収束してもリモートワークを続けたいと希望する人は男性よりも女性に多く、結果的にオフィス環境の男性化やキャリアにおけるジェンダーギャップの拡大を招く可能性があるというBBCの指摘も見逃せません。働き方の自由についての議論が、ジェンダーギャップ等の構造的な問題に蓋をする形ではなく、問題解決に繋がるオルタナティブな選択肢を増やすという方向で深まっていくよう、常に心がける必要があるのです。

 

フレーバーを描くパレット

スペシャルティコーヒー業界のアイコン的存在としても親しまれるフレーバーホイール。1995年に初めて発表されたこの図は、2016年の改定を経て、約20年以上にわたり業界基準としてスペシャルティ文化を支えてきました。Perfect Daily Grind のこちらの記事では、そんなフレーバーホイールの歩みと今日の課題についてまとめられています。

この記事によると、2016年に発表された改訂版フレーバーホイールの製作チームが真っ先に取り組んだのが「フレーバー表現の辞典 (レキシコン)」の編纂だったとのこと。フレーバーについての「共通言語」があれば、カッピング技術の向上や知識の共有が促されることから、多くの研究機関やコーヒープロフェッショナルを巻き込みながらまずは用語が整理されていきました。その後、食品科学の研究チームやクリエイティブエージェンシーの協力のもと、科学的根拠に基づいたフレーバー表現の分類・再編や、各フレーバーに適した色選びを経て、現在のフレーバーホイールが完成したそうです。

一方で、一部で問題視されているのが、この共通言語の根底に潜む文化的バイアスです。「ブルーベリー」や「メープルシロップ」といった、米国で馴染み深い表現が「共通言語」に設定された結果、生まれ育った地域によってフレーバーホイールの有用性が変わる、つまりはインクルーシブではないと指摘されています。一部の文化圏の人々のみが知識を共有・独占してエリート化が進むと、当初の目的であった知識の民主化から遠ざかってしまうという事実は、あらゆる基準の持つ不完全性を示しているように感じます。完璧な基準を求めるのではなく、それを取り巻く環境の変化に応じて継続的に手を入れ続けていく、そんな「常に道半ば」の意識が大切なのかもしれません。

 

その他の気になるニュース

▷ アグロフォレストリー農法の推進に向け、コーヒー栽培に適したシェードツリーをまとめたカタログ「The Shade Catalog」が公開されました。第一弾はインドネシア、2022年にはペルー版が公開予定とのこと。

▷ 焙煎機メーカーProbatが鉄鋼の価格上昇を受けて全商品を4.5%値上げへ。パンデミックによる物流の乱れや米国が中国からの鉄鋼製品に課した関税等を背景に、今春鉄鋼の市場価格は過去最高を記録したのだそう。

▷ Southwest航空をはじめ、米国の航空会社の多くでコーヒーを含む機内サービスの再開が発表されています。手放しにおいしいとは言い難い、そんな空飛ぶコーヒー体験を待ちわびていた隠れファンも多いはず...?

▷ 最短90秒でコールドブリューを抽出できるマシンOsma Proが誕生。長い時間がかかる既存の抽出法では失われてしまう揮発性の化合物も閉じ込められるのだとか。1000台限定生産で現在プレオーダー受付中です。

▷ 豪クイーンズランド州のローガン市で、Googleのドローンを利用したコーヒーのデリバリーサービスが開始予定。地上でも上空でも「空飛ぶコーヒー体験」時代の幕開けかも?

 

What We're Drinking
今週のコーヒー

 

TASTORY COFFEE AND ROASTER
岐阜

日常に寄り添うコーヒーでありたい。コーヒーのおいしさ(taste)+ 楽しさや豊かさ(story)お届けしたい。TASTORYという名には、そんな想いが込められています。当店では豆の個性を最大限に引き出す焙煎を行い、スペシャルティコーヒーの魅力を提供するよう日々努めています。

生産者:ニコル・コルブラン

生産国:パプアニューギニア 

生産地域:東山岳州カイナントゥ県ウカランパ(地図

品種:アルーシャ

精製方法:発酵槽を使用したウォッシュト

テイスティングノート:パパイヤ、パッションフルーツといった南国系フルーツのようなやわらかな酸と瑞々しさがあり、冷めるにつれて蓮華の花の蜜を思わせるまろやかな甘みも。滑らかな口当たりも楽しいコーヒーです。

編集長のコメント:
The Weekend Brew初登場となるパプアニューギニア(PNG)のコーヒーです。お湯を注ぐと共に香ってくる熟した果実味のような柔らかいアロマ。テイスティングノートにあるようにパパイヤを感じ、さらに熟したメロンや甘めの柑橘系果実のようなニュアンスがあります。独特な甘さを感じ、丸みのある比較的どっしりとしたボディとふくよかに感じるマウスフィールが、綿菓子を口に含んだ時のような感覚を彷彿とさせます。温度が下がってくると、ココナッツウォーターのようなフレーバーも。Standart Japan4号でPNGを特集した際、記事の中に「どのブレンドにもPNG産の豆を」とありましたが、それも頷けるユニークなフレーバーでした。ちなみに、アルーシャ品種というのはティピカの変異種だそうですよ。

 


Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート

SICK
ウェブサイト

ニュースレターLobsterrで存在を知ったSICKは、慢性疾患や障がいを持つ編集者やコントリビューター(ライターやアーティスト)によって作られるインディペンデント雑誌。ファウンダー兼編集者のOlivia Springさんは、今週の「Weekly Punchline」でも触れたIssue 1のEditor's Letterで、自分のように慢性疾患や障がいを持つ人たちが、健常者中心の社会で「うまくやっていく」のではなく、自分たちの居場所を確保し、それぞれの声を伝えるためにこの雑誌を作ったのだと記しています。Issue 1にはソーシャルメディアに蔓延する疑似科学的な食事療法や、障がい者が学問を修めることの難しさなどに関する記事が掲載されており、これまで自分が見ていた景色が一変する感覚を覚えました。おそらく制作に携わるすべての人が当事者であるがゆえに、ある種センシティブな話題であっても腫れ物に触れるような調子がなく、安易な感動話としてまとめられていない点が作用しているのでしょう。SICKのテーマを超えて、異なる属性を持った人たちについて自分がどれだけ画一的なイメージを持っているのだろう、と自らの世界観を振り返るきっかけになる一冊でした。


Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ 

 

細貝 涼哉

仙台の老舗ロースター勤務後独立。2017年9月に in vitro をオープン。バイク(オートバイ)とルアーフィッシングにスキー⛷と忙しい日々を送っている。

セットアップ:
抽出器具 : HARIO V60
豆 : 15g
湯量:250g
挽き目:EK43で11番(若干細め)
温度: 93℃
抽出時間: 2:30-3:00

手順:

  1. フィルターを濡らす
  2. 注湯一手目は40g、20秒待つ
  3. 二手目は100gまで、50秒まで待つ
  4. 三手目160gまで、四手目200gまで
  5. 五手目250gまで注湯して落とし切り

            ポイント:

            二手目は落とし切っても可。 四手目は1cmほどかさが落ちたら注ぎ始めます。それぞれの規定量になるまで途切れなくゆっくり丁寧に注ぎます。五手目は落とし切りが重要です。仕上げの意識です。

                  一言:

                  私の基本のレシピです。 ここから必要量に合わせて材料を増やしていますが諸々の比率は大きく変わりません。 また、あえてレシピに作業の幅を持たせています。様々なコーヒー産地やプロセスなどの要素を入れ込む隙が必要だと思うからです。 お客様にもお店のスタッフにもコーヒーを学ぶ学生たちにも同じレシピを提供しています。肩の力を抜いてここから自分だけのコツを見つけて頂けたら一番嬉しいです。


                   

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                  今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第16号スポンサーの TYPICA、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業セラード珈琲カラベラコーヒーのサポートでお届けしました。

                  LOVE & COFFEE✌️
                  Standart Japan
                  (執筆・編集:Takaya & Atsushi)