おはようございます。今週はどんな一週間でしたか?
先日、コーヒーとクラフトビールのイベントに、トークセッションのモデレーターとして参加しました。コーヒーショップで開催されたこのイベントでは、バリスタやクラフトビールを専門とする酒販店のオーナーと一緒に、クラフトビールとスペシャルティコーヒーの共通点を探ってみたり、それぞれの歴史やカルチャーの特性などを語り合ったりしました。
はるか昔から飲まれてきたビールは、中世〜近代には主にヨーロッパで技術の革新が進んだそうですが、1970年代からそのヨーロッパの伝統的な醸造技術をベースに、アメリカやイギリスでマイクロブリューワリー(小規模醸造所)が各地で増えてクラフトビールのムーブメントがスタートしたそうです。70年代は「スペシャルティコーヒー」という言葉が生まれた時代でもあり、何かそういった時代背景でもあったのでしょうか。いずれにせよ、それから現在に至るまでのクラフトビールの盛り上がりは、スペシャルティコーヒーとの親近感を覚えずにはいられません。
個人的には、ビールやワインにカクテル、チョコレート、チーズにコーヒーといった、サスティナビリティや高品質な素材、透明性のある生産プロセスや人々を魅了する美的要素などに力を入れる「クラフト」プロダクトが身近になってきているように感じます。今週公開したブログでは、クラフトチャイのカルチャーを牽引するプラナチャイについてご紹介しました。カフェの空間でこういったクラフトプロダクトが提供されることも多く、そこで発生するクロスカルチャーこそが、コーヒーをもっと面白いものにしているのでしょう。
さて、来週末3/14(日)は、広島で開催されるイベントにトークセッションのモデレーターとして参加します。2018年の福岡で開催されたイベント「Coffee&People」が、3年の時を経て広島の地で開催。九州のロースターたちが集まりトークセッションと渾身の一杯をふるまいます。参加されるのは素晴らしいロースターの皆さんばかりで、本当に楽しみです。雑誌の販売も行っているので、広島や近隣にお住まいでご都合が合う方はぜひチェックしてみてください。
編集長 Toshi
This Week in Coffee
世界のコーヒーニュース
当たり前の前に
昨年3月のコロナ大流行以降、米国内で既に3000件以上も報告されているアジア系国民の人種差別被害。先日スポーツ界でも、アジア系二世のNBA選手Jeremy Linが試合中に人種差別発言を受けたとの報道など、今日の社会が直面する分断の深刻さが浮き彫りとなっています。そんな中、Barista Magazine Onlineはアジア・太平洋諸国系米国人(AAPI)のコーヒーコミュニティに焦点を当てた連載を開始。同シリーズではアジア系オーナーが運営するカフェやロースターに焦点を当て、多様性のもたらす恩恵の再認識とAAPIコーヒーコミュニティへのエンパワメントを目指します。
興味深い指摘の一つが、「アジア系コミュニティの中で育った自分は、地元L.A .を出るまで自分が『マイノリティ』と認識することはなかった」という韓国系アメリカ人オーナーKim氏のコメント。この視点は、先日大山崎 Coffee Roastersの中村さん、雑誌『IWAKAN』編集部のお二人と行ったジェンダー・セクシュアリティについてのClubhouseトークイベントの中で出た、「自分の置かれた環境によって私たちのマジョリティ・マイノリティ性は変化する」という指摘とも通ずるように感じます。
あらゆる文脈において、自分の中に潜む「当たり前」や「偏見」を、矛先として他者に向けるのではなく、常に自分自身の内省へと繋げていく思考習慣。それは他者の多様性だけでなく、私たち自身の多様なあり方を受け入れる習慣にも繋がるように感じてなりません。
Less is More
「Work from Home」以前から、私たちにはなじみ深い習慣「Work With Coffee」。仕事やテスト勉強、深夜作業の裏にはいつもコーヒーがある、そんな人たちも少なくないのではないでしょうか。
しかしこちらの記事で示されているのが、「コーヒーは生産性向上のためにあるのか」という視点。一日8時間労働の勤務体制が導入された20世紀初頭以降、「生産性向上」は社会の大きなテーマとして掲げられ、コーヒー(カフェイン)のもたらす効果も度々議題として挙がってきました。一方で生産性向上を重視する国では、コーヒーセレモニーのようなコーヒー本来の「社会的交流」の側面が失われてきたという同記事の指摘には、思わず納得せざるを得ません。これに近い文脈で近年問題視されているのが、企業や軍隊が導入するマインドフルネスのプログラム。過剰労働や倫理的問題に起因するストレスに対し、「マインドフルネス」を対処法としてさらなる生産性向上を図る現状は、問題の根本的解決とマインドフルネスの本質から遠ざかっているとの指摘も。「生産性」や「効率化」は今日の社会の中核とも言える概念ですが、あらゆる文化や生活の本質が失われている事実に目を向ける必要があるのかもしれません。
ふと振り返ってみると、私たちの生活は「目的のための行為」に溢れ、「行為そのものが目的」であるピュアな体験が減っているようにも感じます。以前のニュースレターでも紹介した「食べる瞑想 (Mindful Eating)」をはじめ、私たちコーヒーラバーにとって「美味しいコーヒーを味わう」というピュアな行為は、「心の平穏」でもあり、また本当の意味での「目的」なのかもしれません。
その他の気になるニュース
▷ スペシャルティコーヒー協会とチューリッヒ応用科学大学が連携し、「Coffee Exellence」の資格コースを開講。E-learningとハンズオン演習から成る全4モジュール・約12ヶ月間のコースを通じ、アカデミックな観点からコーヒーの専門知識を深めます。
▷ 「世界一エコなクラブ」と称されるイングランドのヴィーガンフットボールクラブForest Green Roversが、コーヒーの出がらしと再生プラボトルを原料としたユニフォームを開発。現在同クラブによる「完全木製スタジアム」の建設も進行中。
▷ 山形県の東北萬国社が福島県の蔵元とコラボし、コーヒー豆をウイスキー樽で寝かした「バレルエイジドコーヒー」を数量限定で販売。東日本大震災から10年、同酒造の復興やコロナ禍にも東北から明るい話題を、という思いが込められています。
▷ 阿里山観光局が台湾のコーヒープロフェッショナル向けに約2ヶ月間の阿里山旅行ツアーを企画。収穫や焙煎を通して生産者との交流を深め、新たな関係性構築を図るのだとか。ちなみに記事には台湾のコーヒープリンスことFangさんの姿も。
▷ アートの価値とはどう決まるのか、そもそもアートに価値を求めること自体がナンセンスなのか。Sprudge編集部では、こちらの$100(約1万円)のフレンチプレスについての議論が白熱中。皆さんのご意見は?(なお同商品は既に売り切れ)
What We're Drinking
今週のコーヒー
「Coffee is a great adventure let us experience it all together」(お客さまひとりひとりの、コーヒーにまつわる冒険の旅の一部分でありたい)と願うトラコーヒーロースターズは、オーストリア人であるマリン・ギュンターさんが設立した焙煎所&カフェ。人間ひとりひとりが違うように、唯一無二の個性をもつコーヒー豆と向き合い、ありのままのコーヒーの魅力を伝えています。
生産者:
小規模生産者
生産地域:
エチオピア シダモ、グジゾーン、ベンサ シャンタウェネ村(地図)
品種:
原生種
精製方法:
ウォッシュト
テイスティングノート:
ベルガモット, ブラックティ, アップルサイダー
編集長のコメント:
掴みどころのないアブストラクトなミックスジュースを飲んでいるよう。柔らかな柑橘系の甘みやレモンピール、タンポポのようなフローラルさを感じたかと思うと、ドライフルーツの凝縮感やジューシーな果実味のピノノワールを思わせる瞬間もあり、気まぐれな様子に翻弄させられました。砂糖を指先でつまんで舌の上にそっとのせさっと溶けていくような甘みの余韻と、かすかに見え隠れするマンゴーの後味。焙煎から1ヶ月経ち、今が最高に美味しいと教えてくれたマリンさんが届けてくれたコーヒーは、どこか優しさを感じるコーヒーでした。
Inspiration
おすすめの本、映画、音楽、アート
Street View Portrait
Instagram
The Weekend Brew #2のInspirationで触れたとおり、パンデミック発生後とくにゲームのような仮想空間でのストリートフォトグラフィーに注目する人が増えているようです。今回ご紹介するのは、Google Earthのストリートビューを舞台にしたストリートフォトプロジェクト「Street View Portraits」。The Agoraphobic Traveller名義でこのプロジェクトに取り組むイギリス出身のアーティストJacqui Kennedyさんは、長年Agoraphobia(広場恐怖症)に悩まされており、10年以上にわたって現在世界中の人が経験している都市ロックダウンのような状態を味わってきました。そこで彼女は2016年に自宅から世界を旅できるストリートビュー上で写真を「撮り」始めたそう。このプロジェクトを通じた気づきについて、彼女はi-Dの取材に対し「(ストリートビューで旅していると)異なる場所でも似たところがたくさんあることにすぐ気づき、たとえ遠く離れた場所に住んでいても私たちは繋がり合っていると実感しました。きっと宇宙飛行士も同じ気分なんじゃないでしょうか。視点がシフトし、もっと大きな画が見えるようになる感覚です」と語っています。このプロジェクトを知ったStandart Japanのアツシも早速ストリートビューフォトグラフィーに挑戦してみました。さて、これは一体どこの写真でしょう?
Brewing with…
あの人のコーヒーレシピ
セガフレード・ザネッティで8年間チーフバリスタとして勤務。結婚を機に地元東京から静岡に移住。 2015年に開業し現在はETHICUSの中心的なバリスタとして勤務。 サウナ、BiSH、PEDROにハマり中。
セットアップ:
抽出器具:ORIGAMI
豆量:15g
湯量:240g
挽き目:wilfa Filterのメモリの1つ細かい方
抽出温度:90℃
抽出時間:2分前後
手順:
- ペーパーをリンスする
- 40gを抽出
- その後は30秒毎に100g抽出
- 2分前後で落としきる
ポイント:
豆を挽いた際、微粉や、チャフを取り除きます。そうすると、より輪郭のはっきりした味になります。
一言:
@ethicus.jp
@ethicus_euphrainoo
@ethicus_theleema
と3つの空間コンセプトが異なる店舗があります。 静岡に来た際は是非お立ち寄りください♪
今週の The Weekend Brew はいかがでしたか?
大阪にあるLilo Coffee Roastersの中村 圭太さんが、インスタライブで第15号を紹介してくれていました! 去年スタートし、Standart Japan編集部もいつも楽しみにしている中村さんのインスタライブ。それぞれの号の内容やご自身のStandartの楽しみ方などを、いつもノーカットとは思えない滑らかなトークで発信してくれています。アーカイブはYouTubeで視聴できるので、こちらもぜひ。
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今週の The Weekend Brew は Standart Japan 第15号スポンサーの 兼松株式会社、パートナーの Victoria Arduino x トーエイ工業、Paradise Coffee Roasters、Prana Chai、Typicaのサポートでお届けしました。
LOVE & COFFEE✌️
Standart Japan
(執筆・編集:Takaya & Atsushi)