焙煎に携わっている人であれば、日常的に触れる焙煎機。しかし単に焙煎機といっても、その役割は多岐にわたります。Standart Japan第18号のパートナーを務めてくれたPanasonic の「The Roast Expert」対応焙煎機には、そんな焙煎機の多面性を考慮した特徴が備わっています。
以下ではThe Roastの開発や焙煎プロファイルの設計に携わった豆香洞コーヒーの後藤 直紀さんが語る、The Roast Expert対応焙煎機のマルチな魅力をご紹介します。
ちなみにThe RoastにはBasicとExpertの2種類のサービスがあり、そちらについては以前公開したオンライン記事でご紹介していますので、そちらも併せてご覧ください。
サンプルロースターの役目
The Roastのように少量の生豆を焙煎できるマシンは一般にサンプルロースターと呼ばれ、その名の通り、主に焙煎具合を確認するのに使われます。しかし、一口に焙煎具合の確認といっても、その目的は大きくふたつに分けることができます。ひとつは素材選定、そしてもうひとつが商品開発です。
素材選定
生豆の品質を判断する際に重要なのが「正しく焼ける」こと。購入を検討している生豆を過大・過小評価することなく、そのままの姿を見極めるためには、毎回同じ条件で焙煎することが肝要です。
商品開発
一方、商品を作るときは複数回の焙煎を重ね、理想の味へと追い込んでいく作業が必要になります。その際、普段の焙煎に使っているマシンを活用しても問題ありませんが、焙煎機のサイズによっては一回あたりの最低焙煎量が数kgに及ぶこともあります。そうなると思い描いた風味にならなかった場合にロスが発生してしまいます。特にカップオブエクセレンスをはじめとする品評会入賞コーヒーなどは100gあたり数万円するものもあるため、希少な豆を焙煎するときは一回一回のリスクが増大してしまいます。
サンプルロースターとしての特徴
機能
上記のような役目を果たす上で何よりも重要なのが味の再現性です。従来の焙煎機は環境や天候によりブレが発生しやすいものの、The Roastはプロファイルさえ揃えていれば毎回ほぼ同じ状態で焙煎できるため、1バッチ目から安定して焙煎できますし、連続焙煎も可能です。
また、通常のサンプルロースターはどれだけ小さくても最低焙煎量は100-200g程度。一方The Roastは50gなので、希少なコーヒーもロスを最小限に抑えつつ焙煎できます。
効率
再現性の高さと関連し、手放しで焙煎できるのもThe Roastの強みです。これまでは、誰かがマシンの横に立って豆や釜の温度、プロファイルを調整しながら焙煎しなければいけませんでしたが、The Roastなら先にプロファイルを作っておいて、焙煎中は待つだけの状態で他の業務にとりかかることができます。
例えば商品作りで微妙に異なるプロファイルを複数試したい場合、ひとつめのサンプルの準備ができたら、それをチェックしている間に、次のサンプルの焙煎を始められます。そのため何十種類もサンプルが必要なら、スタッフに協力してもらってサンプルの準備だけお願いする、なんて使い方も。
コスト
新しいサンプルロースターを導入するにあたって一番気になるのが購入代金ですが、豆香洞コーヒーの場合、少ない焙煎量や効率化のおかげでThe Roast Expertの27万5,000円の代金は2年ほどで十分回収できるくらいコストメリットがありました。
ロスの削減
<従来の焙煎機を使用した場合に必要な生豆の量>
従来のサンプルロースターの最低焙煎量: 150g/回
競技会やトレーニング用を含めたサンプルローストの総焙煎数:1000バッチ/2年
サンプルローストに使う豆の量:150g x 1000バッチ = 150kg
<The Roastを使用した場合に削減できる生豆の量>
The Roastの最低焙煎量:50g
従来のサンプルロースターとの差:150g-50g=100g
削減量:100g x 1000バッチ = 100kg
<コスト差>
生豆の価格を1000円/kg※とすると、およそ10万円(100kg x 1000円)のコスト削減効果があります。
※過剰な計算にならないように控えめな金額を仮定して計算しています
労働時間の削減
1000バッチのサンプルローストにかかる時間:200時間程度
人件費:時給1000円 x 200時間 = 20万円
The Roast Expertなら生豆を入れてボタンを押すだけで同じような焙煎ができるので、焙煎中は他の業務に取り組めます。サンプルローストにかかる人件費は限りなくゼロに近づくので、ざっくり20万円ほどの削減が可能です。
他にも従来の焙煎機であれば、スタッフがサンプルローストをできるようになるまでのトレーニングにかかる費用などが発生し得ます。このように控えめな計算でも、2年で30万円と購入代金を上回るコストメリットがあるので、ある程度焙煎量のあるお店であれば長期的には十分コスト削減を期待できるでしょう。
さらなるメリット
ここまでに後藤さんが語ってくれたメリットの他にも、The Roastにはさまざまな拡張性や特典が含まれています。
コーヒービーンズマスター
The Roastを使った通信教育「コーヒービーンズマスター」では、座学と実技を組み合わせ、コーヒーの基礎知識から焙煎、カッピング理論まで学ぶことができます。
現状受講できるのは、コーヒーの基礎知識の習得と味覚の鍛錬に重きを置いた「ジュニアコース」と、焙煎や味作りなど焙煎技術を磨くための「シニアコース」のふたつ。以前までは、オンラインプラットフォームで受講するスタイルでしたが、テキストが冊子に変更されたことで、期間に制限なく繰り返し学習できるようになりました。
ネットワークの拡大
The Roast導入店は、コーヒーライフスタイルWEBマガジン「AKATITI」の「The Roastがあるお店」へ掲載されるため、The Roastを通して販売網やロースター同士の繋がりが広がります。