2002年にスペシャルティコーヒー専門ロースターとしてアメリカ・ミネソタ州で誕生したParadise Coffee Roasters。2008年よりハワイ産コーヒーの研究をスタートし、2016年以降は拠点をハワイに移しさらなる研究・開発に努める同社がStandart Japan第15号のパートナーを務めてくれました。
この記事では、まだ誰も飲んだことのないコーヒーを志すParadise Coffee Roastersの共同オーナー時数 賢司さんに創業ストーリーや先進国でのコーヒー栽培についてお話をうかがいました。
—まずはParadise Coffee Roastersがどのような経緯で生まれたか教えていただけますか?
Paradise Coffee Roastersを創業したミゲル・メザがコーヒーと出会ったのは、13歳のときでした。当時家族が愛飲していたGevaliaというコーヒーブランドが特集された雑誌を両親から手渡された彼は、世界各地でコーヒーが栽培され、そのどれも味が異なるという内容を読んで、その理由をもっと深く知りたいと思うようになります。
数年後、16歳になったミゲルはシアトルのカフェで働き始めます。数えきれないほどのコーヒーをカッピングし、産地ごとの特徴やバイヤーとしての知識も積んでいきました。当時、コーヒーについて学べる施設・協会、焙煎会社や仕事はほとんどなく、コーヒーカッパ―やバイヤーが書いた本を読み、独学するしかなかったそうです。
それからさらに数年が経ち、2002年、19歳になったミゲルは家族と共にParadise Coffee Roastersを設立しました。それまで以上に試行錯誤をしながら、焙煎技術も学び、プロのコーヒーマンとしてのキャリアがそこからスタートしました。
—それからどのようにビジネスが発展していったのでしょうか?
2002年の創業以来、私たちはまさにスペシャルティコーヒーの歴史と共に歩んできました。大量消費される運命にあるコーヒーではなく、特徴のある特別なコーヒーを農家レベルから品質管理し、一つのコーヒーを丁寧に作り上げていく事に注視した約20年でした。
その結果として、私たちが独占的に販売するコーヒーは常に高い評価を受け続けました。必ずしも会社が潤っているかは難しいところですが、しかし、私たちが思い描いているコーヒーを20年に渡って販売できていることは大きな喜びです。
2016年からはハワイに会社を移転させ、更にコーヒーの研究・開発に突き進むことができています。現在は契約農園や品質管理が行き届いた農園からコーヒーチェリーを購入して、当社で独自開発した精製方法による処理をして商品を提供しています。
近い将来、自社農園を持つことを目標にしています。その農園で育てる品種、精製方法などは既に研究を進めています。頭に描いている事を、自社農園で実現していくだけの所まで来ています。
—コーヒー産地としてのハワイにはどのような特徴があるのでしょうか?
環境としてはとても優れていると思います。火山島で高低差があり、寒暖の差も同じ島内でも大きく違います。
一方で、ハワイはアメリカ合衆国の一部なので、人件費が他のコーヒー生産国とは全く違います。また火山島であるがゆえに、足元には火山岩がゴロゴロしており、農園は急な斜面にあります。つまり農耕・収穫重機が使いづらく、人件費は高いのに作業性、作業効率が悪いと言えます。
そのためコーヒーの販売価格がどうしても高くなります。しかしハワイは世界有数の観光地です。ハワイに来たら美味しいコーヒーが飲めるというのは大きなプラス要因です。農園にも車で簡単に行くこともできます。
—COVID-19の影響はどのように感じられていますか?
ハワイ州は2020年3月26日にロックダウン(都市封鎖)を実施し、全世界からの訪問者もシャットダウンしました。アメリカ国内でも州ごとにロックダウンを行い、州間の移動にも14日間の隔離制限が発令され、罰則規定も重いものでした。よって、訪問者は前年の10%も満たないものでした。
ホテル、レストラン、カフェ、お土産屋、全てが閉店し、ハワイ州の島民の移動もなくなりました。ハワイ州での経済活動がほぼ完全に止ったことにより、コーヒーの卸売りについてはほぼゼロになりました。2021年になり、規制が徐々に緩和され、レストランやカフェが再開し始めました。しかし観光客が少ない現状では、まだ卸売についてはコロナ禍以前の20%程度の取引高です。
一方で、ステイホームしている多くの方からは、ホームページ経由の注文を頂くようになりました。これまでのお客様ではなく、新規のお客様が増えました。私たちは創業以来、オンライン販売に主軸を置いていたこともあり、オンライン販売のノウハウは既にできあがっていました。サブスクリプションは当然のこと、お客様が飽きずに、常に感動と幸福感を感じて頂けるようなコーヒーを提供し続けています。
—創業者のミゲルさんと時数さんはどのように出会われたんですか?
私とミゲルの出会いは本当に偶然でした。ある日、友人とランチをしながら色々な話をしていると、その友人がヒロという都市にあるコーヒー農園にコーヒーノキの植樹に行かないかと誘ってきたんです。そこのコーヒー農園の管理委託をされていたのがミゲルでした。
農園全体を管理するのは本業ではなかったのですが、たまたま委託を受けていたそうです。私がQグレーダーだという事を知り、植樹の翌日、ミゲルのコーヒーの試作品をカッピングすることになりました。6種類をカッピングし、私が92点を付けたのが、現在も一番人気の「Kona Champagne Natural Typica」です。私はそれまでカッピングで90点以上を付けたことはありませんでした。ただ純粋にコーヒーを啜り、思う様に、感じる様にポイントを付け、合計したら92点だったのです。自分でも驚きました。
当時Paradise Coffeeでは、ミゲル以外のオーナーからオーナー権譲渡の話しが出ていたようで、ミゲル本人からオーナーになってみないかという誘いを受けて、初めて会った2019年2月から交渉を始め、私は10月に正式にオーナーとして加わりました。
—時数さんは以前建築のお仕事をされていたそうですが、Qグレーダー資格をとるまでになったきっかけは何だったんですか?
私は元々建築士で、日本では設計事務所兼建設会社を経営していました。しかし2017年にハワイに移住したところ、アメリカで建築士の資格を取得してまでその仕事を続けたいとは思いませんでした。
2018年7月に旅行でハワイ島を訪れ、興味本位で現地のコーヒー農園を10軒ほど回ったところ、どの農園で飲んだコーヒーもおいしいと思えず、30年来のコーヒー愛飲家として私の舌を疑ったのです。世界三大コーヒーのコナコーヒーをおいしいと思えなかったからです。その経験もあり、コーヒーの味や香りをきちんと分かるようになりたいと思い、無謀にもQ グレーダーの資格講習・試験を受けることにしました。幸いにも全ての試験をストレートでパスし、私はまた自信を持ってコーヒーを楽しめるようになりました。
元々エンジニアであった私にとって、何かを極めたり、突き詰めていくという作業は非常に向いているのだと思います。周りからは全く違う仕事、分野と言われるのですが、その分野のプロであることは、何か通じる思想というか、理念のようなものを感じます。コーヒーは飲み物であり農作物です。一杯のコーヒーとして口にするまでに多くの人の手で作り上げられていく面倒な飲み物です。その面倒さに多くの人が魅了され、コーヒーを愛して止まない訳です。とても興味深く、自分がコーヒーを極められるのかを突き詰めてみたくなります。