元生産者だからこそわかる、本当にサステイナブルな関係性:セラード珈琲

元生産者だからこそわかる、本当にサステイナブルな関係性:セラード珈琲

Standart Japan第16号のパートナーを務めてくれたセラード珈琲はおよそ30 年前からブラジルに拠点を置き、自社農園の経営や国内外の生産者とのネットワーク構築を通して、日本にさまざまなコーヒーを届けてきました。

創業者の上原勇作さんは、ブラジルに渡った当時「見渡す限りの地平線はどこまでも広がる自分達と農場の可能性のようだった」と語ったそう。この記事ではそんな同社の創業ストーリーや独自ブランド「Productor(プロドトール)」、同社が考えるサステイナブルな関係についてご紹介します。

 

—どのような経緯で80年代にブラジルで自社農園を拓くにいたったんでしょうか?

1943年に長野県阿智村の農家の次男として生まれた創業者の故上原勇作は、いつか自分も広大な大地で農業をしてみたいという夢を持っていました。

日本政府とブラジル政府による合同事業として1980年代から本格的にスタートした日伯セラード農業開発協力事業(PRODECE:プロデセール)に参入するために創業者の上原は当時勤めていた化粧品原料の会社を退職し、夢であるブラジルでのコーヒー農園経営に乗り出しました。

 

—そのための資金やコーヒー栽培のノウハウはどのように獲得されていったんですか?

当時30代の若者だった上原によれば、「日本のバブル期だったこともあり、今とは比べものにならないほど簡単に事業資金は集まった」そうです。

化粧品原料会社に勤めていたころから何度も出張していたので、ブラジルは彼にとって全くの未知の地というわけではありませんでした。そしてブラジルに移民コミュニティとしての「県人会」があると知り、自分の故郷である長野県の県人会を頼ったところ、当時ブラジル長野県人会の会長を務め、サンパウロ州で花を栽培していた故山口節男(セラード珈琲 代表取締役社長山口カルロス彰男の実父)と出会い、農園経営の話をしたところ、意気投合してスタートすることとなりました。

ただ日伯セラード農業開発協力事業は、地球規模の食糧危機に備えるための事業であったため、嗜好品であるコーヒー栽培には当初はJICAからの指導やクレームもありました。それでもブラジルが世界に誇れる農作物であるコーヒーを作り、「日本人好みのコーヒーづくり」という両者のスローガンに向かって、上原はコーヒーが育つまでの経済的支援者を日本で募り、山口はコーヒー農園を軌道に乗せるべく、それぞれが夢の実現に向かって日々努力しておりました。

 

—その後日本へコーヒーを輸出し始めるまでのプロセスについて教えてください。

2人の努力のかいあって、1983年にミナスジェライス州セラード地域パラカツ地区にムンドノーボ農場を開設。 ムンドノーボとはポルトガル語で「新世界」を意味し、未開の大地を切り開くセラード開発にはぴったりということでこの名がつけれられました。

初年度の1984年は土壌を豊かにするために大豆やトウモロコシなどの穀物を中心に栽培を開始しました。 また堆肥を自家生産するために養豚もスタート。1985年には現代表である山口カルロス彰男もムンドノーボ農場を手伝う為に入社しました。 1988年には当時セラード地域では初の水洗式設備を導入したことで注目を集め、 翌年1989年に初のコンテナをサントス港より輸出する事に成功しました。

当時のブラジル産コーヒーには皆無だったウォッシュト中心で、日本での初輸入品の品質について「とてもブラジルとは思えない!」というお誉めの言葉を頂きました。

—ブラジル産コーヒーといえば「セラードコーヒー」の認証がありますが、認証農園になるにはどのような条件が設けられているんですか?

セラードコーヒー認証は、Regiao do Cerrado Mineiro(旧セラード生産者協議会)という、1993年に設立されたセラード地域のコーヒーや穀物の栽培・畜産業に携わる人たちのために作られた組織が管理しています。

同団体の主な活動としてコーヒー産業の振興、州政府や議員への働きかけ、市場開拓、金融機関との交渉といった農政、広報宣伝などがあり、つまりは経営、販売の面で生産者を支える組織です。2005年には農園ごとの認証制度を確立し、より透明性を確保し、それぞれがダイレクトに消費国とコンタクトを取れるようにしました。

まず認証農園になるにはいくつかの審査に合格しなければならず、その条件は世界的な認証であるレインフォレスト・アライアンスUTZなどとも共通点があります。具体的には以下のような条件を満たさなければRegiao do Cerrado Mineiroの認証を取得することはできません。

  1. 生産地/農園がセラード・ミネイロ内にある
  2. 標高が800m以上
  3. アラビカ種限定
  4. 生産者が、9つある協同組合又は6つある協会のメンバーである
  5. カップスコアがSCA方式で80点以上
  6. 環境、農業、労働等に関わるすべてのブラジルの法令を遵守している
  7. 出荷されるロットは提携先の協同組合又は認定された倉庫で保管されている
  8. 原産地と品質を識別するタグが付いた公式の袋のみを使用する

*現在の登録生産者数は4000人程度

 

—セラード珈琲では独自基準をクリアしたコーヒーを「Productor(プロドトール)」ブランドの下販売されているそうですが、そちらについても教えてください。

弊社ではブラジル産以外の生豆も取り扱っており、Produtorブランドのロゴは産地を問わず生産者をきちんと把握できている、カップスコア80点以上のスペシャルティ・コーヒーにのみ付けられます。

SCAJカンファレンスなどにセラード珈琲が出展した際にProdutorの趣旨に賛同する生産者や輸出会社には、日替わりでセラード珈琲ブース内に無料で展示・商談スペースを提供して、自農園・自社をアピールしてもらっています。それからセラード珈琲・東京事務所内のセミナールームでセミナーやテイスティング会の場を設けたり、懇親会を通して交流を深めてもらったり、というのもブラジル気質のセラード珈琲ならではだと思います。

また賛同する生産者や輸出会社とは定期的なミーティングを開催し、現地でのコストを確認しながら買い付け価格を決定しています。こうすることで生産地の実情にあった値付けをして、生産者が安心してコーヒー栽培に打ち込める環境を整備しようとしています。

—「Productor」と「スペシャルティ」の違いをどのように捉えていますか?

両者を比較したときの最大の違いは、Produtorが生産者参加型であるということ、つまり生産者と共に歩んでいく姿勢です。

時には生産者の求める農業機器などをセラード珈琲が出資して導入することもあります。また世界的にも有名な旧サンパウロIACカンピーナス農事研究所の博士とも連携して温暖化対策品種の共同研究も10年前より取り組んでいます。

スペシャルティが高品質の証であることは間違いありませんが、私たちは出来上がった完成品を買い付けるだけで十分とは考えておらず、Productorブランドを通じて生産者と共に歩み成長することを目的としています。これは創業者が元々生産者であり、苦労してきたからこそ生まれた考えかもしれません。

 

—生産者の方々と関係を構築される際、どのような点に特に気をつけられていますか?

自社をアピールするうえで、独自のこだわりや品質重視の姿勢、情熱、生産者や労働者への配慮などを謳うことは重要ですが、聞こえの良い話を伝えることに終始しないように気をつけています。

例えばスペシャルティコーヒーは生産者にとっては一部の商品でしかなく、スペシャルティとまではいかなくてもプレミアムグレードの十分品質の良いものの方がボリュームとしては圧倒的に多いわけです。そのため生産者の本音としては、一部のスペシャルティグレードのみを一本釣りされては困るという考えがあります。これは元々農園を経営していた私たちの経験からも明らかです。特に日本市場では見栄えも重視されることからスクリーン(コーヒー豆のサイズ)が大きく、姿形の揃ったものが好まれます。 そのためスクリーンの小さな豆や逆に極端に大粒なものは品質管理の段階ではじかれてしまいます。

セラード珈琲ではスペシャルティを中心に販促活動をしていますが、スペシャルティでもスクリーンの小さな比較的割安に買い付けられるロットは卸売用としてお客様に紹介したり、プレミアムグレードの豆を量販店向けに販売したりするなど、高質なスペシャルティだけを一本釣りしないようにしています。また、ある年のコーヒーがスペシャルティの基準に届かなかった場合も、その年はプレミアムグレードを買い付けるなど、常にその時その年だけの付き合いとならないようサステイナブルな関係の構築を目指してきました。

通常コーヒーの買い付けに消費国の人間が訪れると、輸出会社に赴き担当者にニーズを伝え、カッピングして好みに合ったものを買うというのが一般的な流れです。しかしこれでは農園と継続的に付き合うことはできません。

私たちは生産者と直接会い、お客様の好み(品種や精製方法など)を伝えて、栽培してもらうところからスタートします。そしてそのコーヒーの出来不出来に関係なく買い付けを約束(不出来な場合は他のロットを必ず買い付ける)することで、生産者が安心してコーヒー栽培に集中できる環境を1988年の創業以来作るように心掛けています。

 

ウェブサイトではコーヒー以外にもブラジルの音楽や絵画の紹介・販売をされていますよね? 何かきっかけがあったんですか?

2002年から毎年開催しているブラジル産地視察ツアーを通じて、日本全国の自家焙煎・ロースターの方々が生産国の文化(食事や音楽・風習)にも強く興味を持たれていると感じたのがきっかけです。

2018年のツアーではブラジル労働者の伝統的な演舞であるカポエラを披露してもらい、参加者から大変な感動したという感想をいただきました。その様なお客様のニーズをとらえて、絵画や音楽ではボサノバを紹介するなどコーヒーだけでなく生産国の文化を理解してもらうことにも努めています。