Standart Japan第21号のパートナーを務めてくれたインド発スペシャルティコーヒーブランドのブルートーカイコーヒー。この記事では、ブルートーカイ創業者のマット・チタランジャンさんと、同社のアドバイザーを務めるPhilocoffeaの粕谷 哲さんにインドのスペシャルティシーンや日本進出の背景についてお話を伺いました。
まずはブルートーカイ創業の背景について教えていただけますか?
マット・チャタランジャン(以下、MC):ブルートーカイは、2013年にパートナーのナムラタと私が創設しました。当時私たちは、長年の会社勤めを経て、自分たちのものと呼べるものを作りたいと思うようになっていました。二人ともコーヒーに情熱を注いでいましたが、インドではなかなか良質なコーヒーを見つけられず、そこに市場にギャップを見出したのです。また、インドは一流のコーヒー生産国であるにもかかわらず、世界のスペシャルティコーヒー業界ではまったく名が知られていないことも分かりました。そこで私たちはインドのスペシャルティコーヒーにスポットを当て、もっと身近なものにすることでどちらも問題も解決しようと考えたわけです。
創業時のインドのスペシャルティシーンはどんな様子でしたか?
MC:2013年の時点では、「シーン」と呼べるようなものはありませんでした。スペシャルティコーヒーを栽培する生産者はインドの消費者が高品質なコーヒーに高いお金を払うとは思っていなかったので、輸出に集中していました。当然私たちはそう思っていませんでしたけどね。結果的に、ブルートーカイは高品質のコーヒーを調達し、新鮮な生豆を丁寧に焙煎し、提携農園を前面に打ち出し、コモディティコーヒーとスペシャルティコーヒーの違いについて消費者を教育するという点で先駆的な存在となりました。
それから10年、インドでは新しいスペシャルティコーヒーロースターが次々に誕生し、都市の大小にかかわらずどこでも高品質なコーヒーを楽しめるようになりつつあります。それぞれの都市には、スペシャルティコーヒーを提供するカフェが複数あるだけでなく、レストランやホテル、企業を含め、さまざまな場でコーヒーの品質向上への関心が着実に高まっています。 このように市場は成長していますが、ようやく変化の芽が出たばかりという程度で、スペシャルティコーヒーが本格的に普及するのはこれからだと思います。そしてこの成長を持続させるためには、バリューチェーン全体で教育やスキルアップの面で多大な投資が必要だと考えています。現在でも、栽培から焙煎、抽出にいたるまで人材が不足しており、業界が花開くために、企業はこれらの分野に大きな投資をする必要があるでしょう。
一方、日本のスペシャルティシーンの今について、粕谷さんはどう見ていますか?
粕谷 哲(以下、TK):一般消費者がアクセスできるコーヒーの質を筆頭に、日本のスペシャルティ業界は世界的にもかなり進んでいるように思います。日本は文化をつくるというよりは、やはり品質を高めるのが得意なのかなという印象さえ持ちます。文化の醸成という点に置いてはまだ遅れをとっているのかもしれません。
店頭や競技会、商品開発などさまざまなフィールドで活躍される粕谷さんにとって、インド産コーヒーの魅力はどんなところにありますか?
TK:まずはクオリティです。アフリカ、中南米が高品質なコーヒー生産地というイメージが一般的ですが、今はその状況に大きく変わっていることを証明してくれているのがブルートーカイのコーヒーです。2050年問題など、コーヒー生産の未来が危ぶまれる中、新しい高品質コーヒーの生産地として注目しています。また、インドで生産されるコーヒーの質が今後向上していけば、そのノウハウを他のアジアの生産国に応用し、さらに可能性を広げられるかもしれません。
日本はブルートーカイ初の海外進出先とのことですが、なぜ日本だったのでしょうか?
MC:きっかけはブルートーカイをお気に入りのコーヒーブランドに挙げてくれたインド在住の日本人の方々でした。「インドに来たら試すべきスペシャルティコーヒーブランド」といった感じで、インド在住の日本人に広く読まれているブログで紹介してくれたんです。
実際にお店に来てくれた日本人のお客様の評判も上々だったので、私たちのコーヒーは日本人の味覚に合うのかも、と徐々に自信が生まれていきました。そして、東京ミッドタウンで初のポップアップイベントを開催したところ、私たちの印象は間違っていなかったことが証明できました。
また、日本人のアートやデザインに対する感性は、私たちととても近いものがあり、日本のお客様はブルートーカイの特徴であるインドのアートやデザインにも親近感を持っていただけると強く感じています。
日本市場ではどんな存在を目指していますか?
MC:「高品質のインド産コーヒーと言えばブルートーカイ」という存在になること、つまりは品質とユニークさを維持しながらも、日本のお客様の味覚に合ったコーヒーを提供し続けることです。 また日本の方々がインドの豊かな文化や食の歴史に興味を持つきっかけのような存在になりたいと考えています。
今後数年間は、オンラインとB2Bビジネスを強化し、大都市圏にカフェをオープンすることに注力します。そして最近東京で行ったポップアップのように、一部の店舗はインドの高品質なプロダクト、アート、デザインを紹介する空間にするつもりです。
ちなみに粕谷さんとブルートーカイはどこで出会ったのでしょう?
TK:シンガポールの展示会でお会いしたのがきっかけです。当時はインドでブリュワーズカップをやりたいから協力してほしいという話でしたね。
マットさんは粕谷さんとのコラボレーションにどんなことを期待していますか?
MC:粕谷さんにはブランドアンバサダーとして多方面で力をお借りする予定です。まずは言うまでもなくコーヒーですね。彼にはローストプロファイルを日本市場向けにブラッシュアップしていただき、全般的な品質管理、さらには日本限定のブレンドづくりもお願いします。日本の家庭向けコーヒー市場はまだまだ伸びしろがああると見ていますし、インド産コーヒーはほぼ知られていないという状況です。そこで粕谷さんいご協力いただき、高品質でユニークなインド産コーヒーについてもっとたくさんの人に知ってもらいたいです。その一環として、これからインドの抽出器具も日本に輸入して、インディアンスタイルでもブルートーカイのコーヒーを楽しんでいただけるようにしようと思っています。
生産国発のロースターであることにはどんな強みがあると考えられていますか?
TK:よりダイレクトに消費者に対して生産国の情報やコーヒーのバックグラウンドを伝えることでしょうか。間にバリスタを挟まずとも生産国の情報を伝えることができるというのは大きな強みだと思います。
MC: 生産国に本拠地があることで、より深く、より豊かなコーヒーコミュニティとの関わりを持つことができます。 非生産国のロースターがダイレクトトレードでコーヒーを仕入れたとしても、収穫期に農園を訪れて見学し、いくつかのロットのコーヒーを選んで帰国するといった感じで、その関係にはどうしてもビジネスの要素が色濃く残ります。他方私たちはコーヒー生産国に拠点を置いているため、生産者との関わりは継続的で、年間を通じて密に仕事をし、長期的な関係を築いています。また、海外のバイヤーには知られていないような農園のコーヒーも扱え、より多くの農家にスペシャルティコーヒーの恩恵を共有できます。
さらに言えば、コーヒー生産国ではない豊かな国から革新的で高品質なコーヒー器具がもたらされ、これらの国が競技会で上位を占めるのは、スペシャルティコーヒーの大部分が非生産国で消費されており、利益も知識も非生産国に留まっているからです。私たちが生産国であることで、この利益と知識の還元を促進できます。
またコーヒーラバーの皆さんも、ブルートーカイのコーヒーを通じて、それぞれの生産者だけでなく、インドのコーヒー産業全体の発展を支援できます。
これから生産国と消費国の関係はどう変化していく、またはどう変わるべきだと思いますか?
MC:スペシャルティコーヒーはコモディティーコーヒーとは性質が全く異なるものですが、大方同じように取り扱われています。農家の手を離れた後に付加価値がつくうえ、極端な言い方をすれば農家は代替可能です。ある国が不作であれば、世界のバイヤーは他の国からその需要を満たすだけです。
特に、スペシャルティコーヒーを飲む人が増えている今、栽培を奨励し、コーヒー生産をよりサステナブルにするための努力が重要です。そのためには、生産国だけでなく消費国にも健全で活気のあるコーヒー市場が必要なのです。私たちがコーヒー消費国に進出するのと同じように、コーヒー生産国にも、消費国のブランドが進出し、知識やノウハウを持ってくるようなことが起きてほしいですね。
TK:僕も継続的な付き合いを重視していて、いいものを探し当てて買い集めるのではなく、いい人を見つけて買い続ける。そんな関係性ができるといいんじゃないかなと思っています。
この記事は、Standart Japan第21号のブルートーカイコーヒージャパンの提供でお届けしました。