Standart Japan第22号のパートナーを務めてくれた、千葉県船橋市に拠点を置くコーヒーブランドPhilocoffea(フィロコフィア)。その共同創業者で2016年世界ブリュワーズカップチャンピオンの粕谷 哲さんに、Philocoffeaのシグネチャーライン「TOMODACHI」が生まれた背景や、生産者とのコラボレーションについて聞きました。
Philocoffeaでは、「TOMODACHI」と名づけられた数量限定のコーヒーがいくつか販売されていますが、これは一体どんなものなのでしょう?
懇意にしている農園と台湾のエクスポーターTri-Up Coffee、Philocoffeaの3者で最高のコーヒーを作ることを目指すプロジェクトが「TOMODACHI」です。
大元をたどると、「自分で超うまいコーヒーを作りたい!」という気持ちが根幹にありました。それを実現する方法について一緒に生豆の買付を行っているTri-Up Coffeeのエリックに相談したところ、エチオピアの生産者と協力して最高のコーヒーを作り出してはどうかというアイディアが生まれました。
エリックは、買付はもちろんのこと、精製に関する広く深い知識を持っているので、彼と栽培のプロである生産者、それから焙煎と抽出のプロであるPhilocoffeaの3者が手を組めばすばらしいものが生まれるのではないかと考えたわけです。
具体的には、COE入賞経験のある生産者たちに協力をお願いして、エリックと独自に開発した手法で精製したコーヒーにTOMODACHIという名前を付けました。エチオピアを皮切りに、これまでエクアドルとコスタリカで同様の取り組みを実施し、今年はケニアで新しいTOMODACHIができる予定です。
「TOMODACHI(=友だち)」という名前にはどんな意味が込められているのでしょう?
まず友だちとしてコーヒーを育て、精製してくれている生産者への感謝の気持ちが込められています。TOMODACHIは実際に農園に行って関係を深めて、「哲とだったらオリジナルのコーヒーを作ってもいいよ」と言ってくれた生産者との協業の末に生まれたからです。
また、TOMODACHIを飲んだ人が生産者との繋がりを感じられるようにしたいという狙いもあります。毎年「あの友だち」のコーヒーが届くのを楽しみに待つような感覚を味わってほしいので。
それから、コーヒーを通じて世界が繋がっていく感覚を伝えたいという願いも名前の裏にあります。生産者とだけでなく、僕たちPhilocoffeaやTOMODACHIを飲んだ人となど、コーヒーを通じて友だちの輪が広がっていってほしいと考えています。
精製方法はどのようなプロセスで開発するのですか?
もちろんケースバイケースだとは思いますが、初回となる2021年のエチオピアでTOMODACHIをつくるにあたっては、当時世界で話題になっていたコーヒーの精製方法について調べるところから始まりました。特に参考にしたのはコロンビアのエル・パライソ農園です。
そこから「発酵を2回繰り返すんだ」とか「パルピングで出た果肉と果汁も使うんだ」といった感じでパーツに分解していき、自分たちができること、協力してくれている農園でできることは何かを見定めていきました。あとはトライアンドエラーです。エチオピアのTOMODACHIは3年目を迎えて徐々に知見がたまり、プロジェクトのパートナーであるエリックが発酵についてさらに勉強しているので、pHと風味の対応関係などを見ながら引き続き精製方法を研究しています。
例えば、エチオピアのTOMODACHIは「ダブルアナエロビックハニープロセス」で精製されているとのことですが、これはどんな精製方法なのですか?
簡単に言うと、嫌気性発酵(アナエロビックファーメンテーション)を2回行う精製方法です。要点だけ説明すると以下のような流れでコーヒーが精製されます。
- 完熟したチェリーのみを集める
- 密閉タンクにチェリーを詰める
- 低温の水の中にタンクを置いて2日間発酵させる
- タンクからチェリーを取り出してパルパーにかける
- 剥いだ果肉とパーチメントを再度タンクに詰める(果肉を捨てずに再利用するのがポイント)
- 3を繰り返す
- チェリーを取り出し、以後はハニープロセスと同様のステップを踏む
通常のアナエロビックプロセスとの違いは、一度パルパーにかけて、そのときに取り除いた果肉を再度タンクに入れて一緒に発酵させることです。これにより複雑で甘いフレーバーが生まれます。
精製方法の開発に伴うコストやリスクの負担について、生産者とはどのような取り決めをしているのでしょうか?
初年度は必ず全量買い取ると約束しています。実際には想定よりうまくいって他の人と分けなければいけなかったケースがありましたが、幸いこれまでのところ、生産者はおろか僕たちでさえ精製がうまくいかなくて何かしらの損失を被ったことはありませんでした。
コストに関してはpH計などの必要な資材の購入はサポートしていますが、それよりもできあがったコーヒー豆を高く買い取ることで生産者の努力に報いるという方針でプロジェクトを進めています。正直、設備投資については資金移動などに障壁がありなかなか進まないので、当面は今の体制を守りつつ今後生産者と話合って一緒に進めていきたいところです。
まだTOMODACHIを飲んだことがない方へ一言どうぞ!
一緒に作り上げる過程を、年々楽しめる。これがTOMODACHIの醍醐味であり魅力です。「今年はどんなTOMODACHIだろうか」「そろそろあの国のTOMODACHIがやってくるのではないか」「去年とはここが変わった」など、毎年TOMODACHIの変化や成長を感じてもらいながら、世界一のコーヒーを作るという目標を応援していただけると嬉しいです。